この補足資料は、技術書同人誌博覧会の行動規範を補うものです。 参加者が安心してイベントに参加できるようにすることが目的です。 そのために、起こりうるハラスメントの種類や、気づき方、避け方、対応のしかたをあらかじめ知っておきましょう。
カンファレンスや勉強会など、さまざまな人が集まる場では、悪意のある言動だけでなく、善意や無意識のふるまいが思いがけず相手を傷つけてしまうこともあります。 この資料では、そうしたハラスメントの種類と具体的な行動例を紹介しています。 自分のふるまいを見直すきっかけとして、ぜひご活用ください。
セクシャルハラスメントとは、相手の同意がない性的な言動によって、不快感や羞恥心、威圧感などを与える行為です。性的な意図がなくても、相手が「性的な意味を感じて不快だった」と受け取れば、それはセクハラにあたる可能性があります。
たとえば、容姿や服装に関するコメントは、言った側にとっては「褒め言葉」でも、相手が不快に感じればハラスメントとなります。
※たとえ好意からの言動でも、相手にとって不快であればセクハラと見なされます。 ※「かわいいね」などの言葉は、相手がその場でうまく対応できなかったり、反論しにくい雰囲気に置かれている場合、とくに配慮が求められます。
マイクロアグレッションとは、悪意のない言葉や態度の中に含まれる、無意識の差別的・排他的な要素のことです。本人に悪気がなくても、繰り返されることで相手に強いストレスを与えることがあります。
本コミュニティでは、性別に関わる多様なあり方を尊重します。参加者のなかには、戸籍上の性別と異なる性自認を持つ方、また性別を特定されたくない方など、さまざまな背景や事情を持つ人がいます。誰もが自分らしくいられるよう、意識的な配慮を心がけましょう。
※配慮は、相手を特別扱いすることではなく、誰もが安心して過ごせる前提をつくることです。わからないことがあっても、無理に聞き出すのではなく、まず「尊重する」という姿勢を持ちましょう。
不快な接近やつきまとい行為とは、相手が望んでいないのに、継続的に接近したり、個人的な接触を試みたりする行動です。一見すると親しげなコミュニケーションのように見えることもありますが、相手が不快に感じていればハラスメントです。
※長時間にわたってイベントの趣旨や場所を考慮しない個人的な会話を続けることは、相手の負担になります。 ※1対1での会話が続くときは、5分ほどをひとつの目安にして、相手の表情や様子に気を配りましょう。
モラルハラスメントとは、言葉や態度によって相手を精神的に追い詰める行為です。からかいや陰口、無視、皮肉など冗談のつもりであっても、受け取る側が傷つく言動はモラハラに該当します。
※自分では気軽なつもりでも、相手にとっては不快だったり傷つく言動になる場合があります。 ※「悪気はなかった」「冗談のつもりだった」という意図があっても、相手の感じ方を重視することが大切です。
差別的または排他的な言動とは、相手の性別、年齢、国籍、障がい、職業、宗教、性自認などの属性を理由に、侮辱したり排除したりする行為です。冗談や軽口のつもりでも、無意識の差別意識が表れることがあります。
パワーハラスメント(パワハラ)とは、立場や役割の上下関係を利用して、相手に精神的・身体的な苦痛を与える言動のことです。カンファレンスにおいては、経験の差や主催者・登壇者・スタッフと参加者との関係などが「力の差」として働く場面があります。
オンラインハラスメントとは、SNSやチャットツール、ブログ、動画配信などのオンライン空間で行われる嫌がらせ行為です。オフラインの場とは異なる形で、相手のプライバシーや名誉を傷つけることがあります。
写真や動画に関するハラスメントとは、相手の同意を得ずに撮影・使用・公開することで、プライバシーや安全を脅かす行為です。
飲酒するかどうかは、体質や宗教・文化的背景、健康状態、個人の信条などに関わる重要な判断です。飲まない、あるいは控えている参加者に対して、からかいや強要を行うことは、たとえ悪意がなくてもハラスメントにあたります。
※飲まないという選択も、個人の尊重されるべき価値観です。意図がなくても、相手に不快感や疎外感を与える可能性があります。すべての人が安心して過ごせる場を一緒に守りましょう。
暴力的な行動や威圧的なふるまいは、身体的・心理的な安全を損なう重大な問題です。たとえ身体的な接触がなくても、威圧的な言動や身振りで相手に恐怖や不快感を与える行為は、ハラスメントとみなされます。
※暴力的な行為は、安心して参加できる場づくりを大きく損ないます。たとえ一時的な感情でも、他の人に恐怖や不快を与えることのないよう、冷静な行動を心がけてください。
明確なハラスメントに分類されない場合でも、他の参加者に不快感や迷惑を与える言動があります。イベントの快適な環境と参加者の安心感を守るために、以下の行動にも配慮が必要です。
この章では、カンファレンスにはじめて参加する方が安心して過ごすためのヒントを紹介します。 行動規範やハラスメントの知識をふまえ、「こんなときどうすれば?」という場面別のアドバイスをまとめました。
はじめての参加は緊張して当然です。 わからないことがあるのも自然なことです。 気になることがあれば、遠慮せずに話しかけてください。 このイベントは、あなたのようにはじめて参加される方も安心して過ごせるように運営されています。
「これってハラスメントかな?」「迷惑だったかもしれないけど、気のせいかも」と感じたときでも、ひとりで抱え込まずに相談してください。 誰かが安心できなくなっているかもしれないと感じたら、その気持ちは十分な理由になります。 報告や相談に正解や証拠が必要なわけではありません。 うまく話せなくても、「少し気になることがあって…」と伝えてもらうだけでかまいません。
困っている方や、声にしづらい方のためにも、小さな違和感からでも共有し合える空気をつくっていきましょう。
ハラスメントは悪意のある人だけが起こす特別なものではありません。 ちょっとした言葉、何気ない態度、よかれと思った行動が、相手にとっては不快や恐怖につながってしまうことがあります。 この補足資料で紹介した事例の多くは、「自分もやってしまうかもしれない」と思えるものだったのではないでしょうか。 明確な悪意がなくても、相手にとっては負担になる場合がありますので、誰かを疑うよりも、まず自分自身のふるまいを振り返ることが大切です。
自分が直接ハラスメントをするつもりがなくても、誰かのハラスメントを見過ごしてしまったり、空気として黙認してしまうことも、安心な場づくりの妨げになります。 カンファレンスは、立場や背景のちがう人たちが一緒に学び、つながり合える貴重な機会です。 一人ひとりが「自分のふるまいが誰かを困らせていないか」「何かできることはないか」と考えることが、また来たいと思える場所をつくっていきます。
もし違和感や不安を感じたときには、ひとりで抱え込まず、信頼できるスタッフや周囲に相談してください。 また、ハラスメントを目撃したときには、当事者でなくても声を上げることができます。
安心して過ごせる場所は、みんなで守るものです。 この資料がそのはじめの一歩となり、あなたの行動が誰かの安心につながることを願っています。
この資料は、ariaki(ariakira[at]gmail.com)によって作成され、CC BY 4.0のもとで提供されています。 本ライセンスのもと、どなたでも本資料を自由に利用・改変・共有できます。ただし、元の著作者のクレジットを明記してください。 ※ライセンスに基づく再利用の際には、文書の一部または全文を含む旨を明記してください。 ※迷惑メール対策のため「@」を「[at]」に置き換えています。送信時はご注意ください。