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理工系全般-その他-その他
酒販店「CRAFT DRINKS」代表の沖俊彦による評論活動サークル。プロビール作家組合のNorth American Guild of Beer Writers日本人初正会員。15年CRAFT DRINKSを立ち上げ、酒販の傍らクラフトビールを中心に最新トレンドなど執筆。たまに商業媒体に寄稿。世界初特殊構造ワンウェイ容器を日本に紹介、18年ウイスキー樽熟成ビールをプロデュース。24年より読書会を主催。25年に角川書店より単著「クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」刊行。Kindle多数、全作 Unlimited対応⇨ https://amzn.to/4h6usES ■https://craftdrinks.jp/ ■https://x.com/craft_drinks ■https://note.com/wokitoshihiko ■https://craftdrinks.booth.pm/ (既刊pdfのDL販売) 右記以外にも主催する読書会会報誌など、既刊を多数お持ちします。立読み大歓迎です。お気軽に手に取ってご覧ください。
「クラフトビールの諸相」はセルフアンソロジーと言えば良いでしょうか、これまでの4年弱を私なりに総括するものです。私の持つ問題意識や関心の方向性が強く反映されてはいるのですが、とりあえずこの一冊を読むと今のクラフトビールシーンが持つ幾つかの側面についてイメージを持って頂けるのではないかと思います。
クラフトビールは液体として独立して存在するモノというよりも、コミュニティと相互補完的に成立する動的な現象として様々な切り口で切り取って記述されるべきものであろうということです。そして、それは感性、感情など精神の働きを多分に含むものであるから、数値だけではなく言葉によって描き出されるものに違いありません。
作り手、飲み手各人の想いも様々です。一様でないからこそ多くの考え方が出来ます。ビールそれ自体を考えるだけでなく、その思考がどういうものなのか、何に由来するものなのかを考える事ができるでしょう。ビールも人も時代と共に変化していくのでそれについて思いを巡らすことに終わりはありません。
この場合、終わりが来ないことは辛いことではなく楽しいことです。私がCRAFT DRINKSを立ち上げて7年以上経ちますが、一度も飽きたことはありません。日々新しいものが生まれて刺激に溢れていますからむしろ楽しさは増しているとすら思います。
テーマは多岐に渡り、様々な角度からお酒を通じて人と社会について論じてきました。コロナ禍もあって人とお酒の関わり方、そして社会の有り様も変化してきたように思いますから15作目の本書ではこれまで私が考えてきたことをまとめ、現段階で言えるクラフトビールの持つ幾つかの側面について過去作を下敷きに論じ直し、人と社会について改めて検討してみました。ベースはあるにせよ、最終的に9万字強、本文80ページほどになりました。目次からして大盛りなのですが、こんな感じです。ご覧くださいませ。
目 次
はじめに 終わらないクラフトビール
1.本を作り始めたきっかけ
2.終わらないということ
3.一旦これまでをまとめてみようと思う
第1章 「クラフトビールとは?」という問いを立てること
1.定義する目的
2.様々な立場から考えるクラフトビール
3.クロスオーバーなクラフトビールと境界線
4.数値と感情の狭間
5.対概念を使って考えてみる
第2章 対概念1 大手ではなく、中小企業
1.アメリカにおける定義とその変遷
2.流通システムと近年の傾向
3.大手が嫌われる理由
4.スタートアップが最初にすること
5.資本主義的合理性と成長の限界
6.業界団体による改善の必要性
第3章 対概念2 全国展開ではなく、地元志向
1.地元という概念と地元志向の必然
2.顔が見えるということ
3.コロナ禍とクラフトビールの場、確かさについて
4.私とビールのある場との距離、時間について
5.クラフトビールは観光の目玉になるか
第4章 対概念3 古くて工業的ではなく、新しくて職人的
1.工業的ではないビールを考えてみる
2.日本におけるクラフトビールという概念の大きな要素
3.ビール産業のビジネスモデルとその難しさ、人材について
4.人材育成とホームブルー、技術について
5.記憶と再解釈、新しさについて
第5章 対概念4 単一ではなく、多様
1.実は大手は単一ではない
2.ビアスタイルの多さはクラフトビールの多様性を示すのか
3.ビールの多様性とは言葉、感性、人の多様性
4.コミュニティとマイノリティ、特にジェンダー、エスニシティについて
5.ジャンル横断とビヨンドビール、総合飲料メーカーへ変化するブルワリー
第6章 これから検討すべき課題に関する断片
1.1994年からの歴史を総括すること
2.日本らしさについて
3.形式と内容、個の主体性とコミュニティについて
おわりに
クラフトビールというものは単に麦芽発酵飲料を指すのではなく、作り手、飲み手の相互コミュニケーションであり、社会の中に生まれる現象です。その意味でクラフトビールは社会的で社交に関する飲み物だと言うことも出来るはずですから、私はクラフトビールは人文社会学の対象だと考えています。ビールは飲むものでありながら、読むものであり、記述するものでもあると思うのです。
ビールを主題とした本を読むことで分かるビールのことはたくさんあります。それには今も高い価値がありますが、ビールが物理的に何であるかを超えてその周縁との関係や受容のされ方、時代的な意義づけなどを意識して著された本は決して多くないように思います。ですから、他の主題であっても、それがビールと何らかの共通点があって読み替えることが出来るのならば、積極的に読み替えて応用してみようと私は考えています。エッセイや小説、学術書でもそれは可能です。もっと言えば、参考になるテクストとして音楽、映画、絵画など時間芸術、空間芸術にも拡張して良いはずです。取り急ぎ本書ではクラフトビールなるものを考えるにあたってこれまでに読んできた本を幾つかご紹介したいと思います。
この「ビール片手に僕はこんな本を読んだ」という企画は主催である沖個人のものとすることなく、外側に開いたものにしようと思っています。ビールを飲み、本を読み、考える。その結果生まれた言葉が誰かに届き、その誰かがビールを飲むこと、本を読むこと、そして考えることについて何かしらの良い影響をを与えるならば嬉しいです。そのループを生む為にはこの本は私個人に閉じることなく、広く寄稿を受け付けるプラットフォームとして機能させ、狭いながらも熱量ある飲み手コミュニティを媒介するものとなってくれることを願っています。
有難いことに今回3名が寄稿して下さいました。弦壱氏、クラフトビール好き太郎氏、まろう氏のお三方に心から感謝申し上げます。
目 次
はじめに 読むと言うこと、飲むと言うこと 5
1.丸山眞男 “日本の思想” 6
2.東浩紀 “一般意志2.0:ルソー、フロイト、グーグル” 8
3.Munchies “The Next Phase of Craft Beer in Japan: Al-Kee-Hol” 10
4.都留康 “お酒の経済学” 13
5.小林盾 編 “嗜好品の社会学 統計とインタビューからのアプローチ“ 18
6.三宅香帆 “「好き」を言語化する技術” 20
7.竹鶴政孝 『ウィスキーと私』 22
新刊
同人誌・40ページ・10部頒布・紙・1,000円 クラフトビールは流行していると言われるけれども、実際には統計データが無く、その実態はよく分かっていません。にもかかわらず、人気で素晴らしいという言説が広まっています。実際に美味しいものは存在するので、こうしたエモい言説ではなく、「なぜ美味しいか」を語るべきではないかと私は考え、筆を執りました。
私は酒屋で物書きなのでクラフトビール製造における技術を語る立場にありません。しかし、「技術を語ること」について語ることは出来ると思います。それは「なぜ美味しいか」、つまり技術に支えられた液体の創造(テクネー)を語ることで、そうした語りが技術及び消費の普及に寄与するはずだからです。
技術という言葉の意味から始め、そこに含まれる身体知、経験知などについて論じます。また、補論として技術の向上における消費者とのコミュニケーションをサイバネティクス的な「再帰的なコミュニケーションのループ構造」と捉えて別の角度からも論じます。
本論は角川書店から刊行された拙著「クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」の発展的内容と位置付けております。よろしければそちらもご拝読賜りますようお願い申し上げます。